~新春を寿ぎ~ 「福を呼ぶ 切込焼」展から
現在、切込焼記念館常設展示室1階において、新年に相応しい吉祥文様の切込焼を紹介しています。定番の松・竹・梅の他に、宝文、多産を意味する柘榴、家系繁栄を願う唐子、生命力の強さを表す唐草、「寿」字などの伝世品に加え、「めでた文様集」と題した出土資料の紹介も行っています。
出土資料はそのほとんどが初公開、しかも伝世品としては確認されていないものばかり。切込ファン必見の機会といえましょう。
受付ロビーでは、愛らしい大正切込焼の恵比寿様と大黒様がにこやかに、皆様をお出迎えしております。ぜひこの機会に、”招福切込焼”とともに新春のひとときをお楽しみください。
※尚このHPでは、出土資料による「めでた文様集」の一部をご紹介します。
1.盃【初公開】日本一の山・富士山を一気呑み?
盃/染付富士に松文<三保の松原か>
(切込西山窯表面採集資料)
口径(残存部)7.5cm
純白の地に明るい青で霊峰富士と松林が描かれる盃。清々しく美しい風景が目を引きます。
しかし残念なことに、焼成過程で大きく変形し、高台部には焼台まで融着してしまいました。成功していれば、盃を満たす酒の中に富士山が見える、酒好きにはたまらない器となっていたことでしょう。
やきものづくりは「1焼き、2土、3細工」と称される通り、最終工程の焼きが最も難しく責任重大。
・・・にしても惜しまれますね。
2. 盃【初公開】 女子専用?内も外も愛らしく
盃/染付梅花・羽子板文
(切込西山窯表面採集)
口径(残存部)9.0cm 高さ4.0cm 高台径3.8cm
「かわいい!」と思わず発してしまいそうな盃です。内底に見えるのは羽子板と羽根そして毬でしょうか。外面にはふたつの梅花、また反対側に丸く膨らむ蕾も添えられ、女子の心をくすぐる表現がそこかしこに。100年以上前とはいえ、現代でも充分愛されるタイプの切込焼といえましょう。(外面は展示室でご覧ください)
こうした器の文様や種類、生産量等の決定がどのような組織や体制下で行われていたのかまだ分かっていませんが、西山窯の南前方には昭和50年に「西山工房址」が東北大学考古学研究室による発掘調査で確認されており、その工房の中で成形や絵付けが行われたと考えられます。
3. 輪花皿 「寳」の一文字で決める!
輪花皿/染付寶船文
(昭和63年中山窯下方平場出土)
口径(残存部)14.0cm
高さ(融着総高)4.6cm
大きく「寳」と書いた帆掛け船が、こちらに向かって前進中。なにやら高まる期待感・・。
しかしよくみると、船体そのものはみえず、積んであるはずの宝物の描き込みも一切ありません。ただ「寳」の一文字あるのみ!何と大胆不適な表現でしょうか。わずか径14cmの小サイズとはいえ、大海原に堂々たる存在感を放っています。
ご覧の通り、この皿の後ろ(下)には別の皿が融着しており、重ね焼きが行われていたことがわかります。これも焼成中のアクシデント、失敗作です。この状態では下の皿も同じ文様なのかどうか、残念ながら確認することがことができません。
以上の他に、出土資料としては寿老人文丸皿・亀文飯茶碗・梅文丸皿・「寿」字入独楽なども紹介しております。これらの資料は通常は展示しておりませんので、ぜひ、この機会にご来館いただき、知られざる切込ワールドをご堪能ください。(3月30日まで開催)
染付菖蒲蝙蝠文八角鉢(見込「寿」)【つね遺品】
更新日:2025年01月09日